イーストプレス社 からサイモン・スキャメル=カッツ氏の 『無意識に買わせる心理戦略』 (以降「評書」)を献本していただきました。

これは、2012年に刊行された”The Art of Shoppong  How we shop and Why we buy の邦訳版であり、著者のサイモン・スキャメル=カッツ氏は、消費者行動調査のコンサルティング会社のディレクターです。

丁度、昨日の土井英司氏のメルマガ 「ビジネスブックマラソン」 で本書が取り上げられており、そのメルマガで、パコ・アンダーヒル氏のベストセラー、『なぜこの店で買ってしまうのか』(原題“Why We Buy  The Science of shopping”、以降「比較書」)が文庫化されたことが紹介されていました。

(近年、単行本の文庫化にあたって改題するケースが多いため、同じ書籍を2度買わされてしまうという罠に陥いることがあるのですが、早川書房さんは良心的です。)

消費者行動に科学的なアプローチを導入した先駆者であるパコ氏の書籍は、今回の評書の比較対象に最適でしょう。
(なお、評書本文中にも、著者自身がパコ氏の動向を気にしている一節がありますし、そもそも、副題もカブってます)。

比較書は1999年の刊行のため、その調査ツールの中心は追跡者が消費者の行動を記録した紙(トラックシート)です。
一方、評書では視線追跡装置やfMRI(機能的核磁気共鳴断層画像法)など、最新の技術から得られた情報が加味されています。

使用するテクノロジーに違いはあるものの、「消費者行動を科学的に分析することで、従来のピントはずれなマーケティング手法の間違い指摘する」という趣旨は同じです。

比較書は米国ベストセラーの典型どおり、事例が豊富で読み物としてもおもしろいのですが、なにぶんボリュームが多く冗長に感じます。また、米国の小売業の事例が多いため、我々にはなじみのないチェーン店が多く、その店の規模やレイアウトを連想しづらい部分があります。

しかし、マーケティングにおける定本の1冊が文庫価格で入手できるのは魅力的です。

一方、評書は、255ページというボリュームにまとめられているので、読みやすさではこちらに軍配が上がります。
評書における様々な事例からわかることは、 「消費者は商品の利点と値段を天秤にかけて、合理的に損得を計算」 して商品を選んでいるのではなく、実際は 「できるだけ労力をかけず、最低限の判断」 (p228)、つまり習慣によって行われているという点です。

著者は、商品選択に影響を与える要素としてブランドに対する 「情動の蓄積」 の存在を指摘し、「情動の蓄積」を「その人が過去にさまざまな場面でブランドに接したときの記憶や、感情や、感覚がひとまとめにされたもの」 (p193 )と規定しています。

しかし、現在のブランド論では「消費者の体験」などもブランド概念に含まれるのが通例ですので、最終的な結論部分は他誌との差別化が不十分な印象を持ちました。(その部分を知りたければ、弊社のコンサルティングをお受けくださいということでしょうか)

「なぜこの店で買ってしまうのか」の文庫版はマーケティングの定本として、「無意識に買わせる心理戦略」は、小売業にお勤めで販促手法に行き詰っている方々に最適でしょう。

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