日本実業出版社から林總先生の 『経営分析の基本』を献本していただきました。

20150427

(Disclaimer)
以前の書評 でも言及したように、評者である私自身も同類の決算書本を上梓しているため本書の作者とは競合関係にあります。
その一方で、同じ「この一冊ですべてわかるXXの基本」シリーズの著者( 「会計の基本」 )でもあるため、同シリーズの販促に関しては協業関係が生じています。
その結果、書評の中立性にどのような影響が生じるのか書いている本人もワケがわからない関係にある点にご注意ください。

本書を通読した印象は「手堅い一冊」というものです。それは「基本」シリーズの編集方針でもありますから当然とも言えましょう。

・B/S、P/Lを用いた安全性分析、収益性分析
・損益分岐点分析(CVP分析)
・キャッシュフロー分析
・生産性分析
・株式投資分析

まで、経営分析の入門書として過不足のない内容です。

作者のベストセラーのひとつに 『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるのか?』 があります。本書では実際に「餃子の王将」「ひらまつ」の事例を用いてどちらが儲かっているのかを検討し、そこからCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の説明へつなげるくだりは、読者を引きつけるすばらしい構成になっています。

本書を読んでいて、一点、気になったことがあります。
CVP分析の項で上場企業の数値データを用いた解説があり、その資料中に「限界利益」と「固定費」の値が記載されています。
これらの値は勘定科目分析法で算出したものと思われますが、読者の理解のために算出過程の補足があった方が良かったのではないでしょうか。
初心者向けの書籍ということで敢えて記載を省略されたとも推察しますが、注記にすれば、初心者の理解を妨げずに中級者以上の理解の助けになると思います。

経営分析の類書として、私が以前からおすすめしているのは産業再生機構のCOOを務めた冨山和彦氏の 『IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ』 
(PHPビジネス新書)です。

財務指標から各社のビジネスモデルを解き明かしていく過程を、実例とともに解説し、章タイトルにあるように「数式の世界から人間ドラマの世界」が体験できます。

ただし、この冨山氏の著作では、財務指標に関する基本的な説明を省略していますので、その部分を補完する一冊として本書「経営分析の基本」は最適でしょう。

話は本書を離れますが、既にビジネス書の定番となっている日本実業出版社の「基本」シリーズは、実は大きな問題を抱えています。

それは・・・・・・・・

表紙の色が足りないのです。

20150423

このシンプルな表紙デザインが、実務書としての安心感を生み出しているのですが、シンプルであるがゆえに、色以外に調整の余地がなく、シリーズの増加にともなって使える色が不足していきます。

この問題は、私が「会計の基本」を執筆した4年前の時点でも既に顕在化しており、今回の「経営分析の基本」の藍色も「コンサルティングの基本」の青色に近いものになっています。

日本実業出版社はこの難問をどのようにして解決していくのか、今後の展開に注目しましょう!

(実際の印刷では色目の調整を繊細に行えるため、写真では似たように見えても実物はかなり違って見えます。 したがいまして、実物ベースでは、使える色にまだまだ余裕があるようです。)

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