昨今、コロナウイルスの動向については、様々な人々が様々な立場から意見を述べられています。
このような、将来の不確実な事象への対応については、かつての「2000年問題」が参考になります。
(注:若い方のために、2000年問題について補足しておきます。西暦2000年をむかえる時に、従来下2桁で年号を管理していたシステムが予期せぬ障害を起こすのではないかと言われ、当時のIT担当者が世間からボコボコに叩かれながらも無事に対応したという悲劇の歴史です)
対応が完了した2000年3月30日に、政府(内閣コンピュータ西暦二千年問題対策室)が2000年問題を総括した報告書が公表されています。
「コンピュータ西暦2000年問題 に関する報告書」
私も、この2000年問題については、IT担当者として「間に合うのか!」「海外はこんなに進んでいるんだぞ!」と尻を叩かれましたので、この報告書中の内容には強い共感を覚えました。
報告書全体としては、内外からの批判等もあったが、我が国の2000年問題対応は大きな混乱も生じず的確なものであったと評価しています。
この中に、今後、参考とすべき事項として次のような記述があります。
Ⅳ.2000年問題から学ぶべきことと今後の対応
【今後の課題として更に対応すべきもの】
(中略)リスクがいかに低くてもゼロとは言えないために「可能性」があるという表現で断じてしまう等の用語の曖昧さも相まって、上記のような本来専門分野でない者による必要以上に深刻なコメントが影響力を持った。(太字は筆者加筆)
このような2000年問題の反省を踏まえた上で、本来専門家でない私が、本日は、少々コロナウイルスのネタを書かせていただきます(長いマクラだ)。
(Disclaimer)
当方、医療はまったく専門外ですので、以降は、単なるデータのご紹介とリンク集としてお読みください。
スェーデンのローカルニュースサイトで、次のような記事が掲載されています。
https://www.thelocal.se/20200310/timeline-how-the-coronavirus-has-developed-in-sweden
えらく長い記事なんですが、4月6日の記述の中で、下図のスウェーデンのインフルエンザ感染者数のグラフを参照し、感染者の推移(緑の棒グラフ)が急激に減少しているのは、衛生意識の変化を表していると紹介しています。
手洗いや三密を避けるといった行動は、コロナウイルスだけではなく、通常のカゼやインフルエンザ予防にも効くので、統計データが豊富で、かつ、発症までの時間の短いインフルエンザは、コロナウイルス感染の先行指数になるとの考えでしょう。
横軸は年初から第何週目かを示しているんですが、欧州では第8週(3月23日)にイタリアが移動制限を出していますので、そこからの行動変容が感染者数の減少に影響しているようです。
ただし、通常のインフルエンザは季節性であり、ピークの期間も短いので、これだけではよくわかりません。
次に、ヨーロッパ全体の状況を見てみましょう。ECDC(European Centre for Disease Prevention and Contro)がヨーロッパ全体の統計データを公表していまして、第13週における発生者を前年とを比較したグラフがありました。
https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/weekly-influenza-update-week-13-march-2020
このグラフは前年の推移と比較しているのでわかりやすいですね。欧州で対策が行われ出した9,10週あたりから前年と比較して急激に減少していることがわかります。
続いて米国CDC(centers for Disease Contral and Prevention)が全米のインフルエンザの統計を発表しています。
https://www.cdc.gov/flu/weekly/index.htm
最新が第14週(最終4月4日)のレポートです。
急激に減少しているのはわかるのですが、このグラフだと過去との比較ができないので、州別のデータから、現在、深刻な状況なNY州の推移を見てみます。
https://www.health.ny.gov/diseases/communicable/influenza/surveillance/2019-2020/flu_report_current_week.pdf
太い赤線が2020年です。3月ごろから減少はしているのですが、前述した欧州も米国も1,2月中には、例年にくらべて特段の行動変容は認められません。
続いて、コロナ対応に成功していると言われている韓国の事例をみてみましょう。
https://www.health.ny.gov/diseases/communicable/influenza/surveillance/2019-2020/flu_report_current_week.pdf
KCDCが、インフルエンザの週刊レポートを公表しており、これは、最新の第14週のグラフです。
これも赤線が2020年です。韓国は気候の特質なのか、インフルエンザのピークが年度によって大きく違うので、今年の推移だけ見て判断するのは困難です。大邱市の集団感染がわかったが2月中旬(第9週ごろ)なので、今年については、既にインフルエンザのピークを過ぎていたようです。
では、最後に我が国のデータを見てみましょう。
まず、NIID(国立感染症研究所)が過去10年の比較グラフを4月10日に公表しています。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/813-idsc/map/130-flu-10year.html
赤の太線が2020年度です。例年に比べて感染者数が大幅に少ない事がわかります。ただし、今年は例年になく温暖でしたので、気候の影響も大きいと推察されます。
最後にもうひとつ。東京都健康安全研究センターが公表している東京都のインフルエンザ状況のグラフをみてみます。
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/flu/2019/Vol22No17.pdf
これも赤い太線が2020年。このグラフをみると流行の始まりは例年よりも早かったのに、1,2月にピークをむかえないまま抑え込まれています(1月第1週の大きな減少は正月休みによる)。
急激に死者数が増加した欧州や米国とは異なる感染推移になっており、我が国においては既に1,2月から行動変異の影響が出ているとも読み取れます。
ただし、中国で最初の死者が出たのが1月9日、日本で最初の感染者が出たのが1月16日ですから、今年は、そもそもインフルエンザの流行が少なかったのか、コロナ対策による行動変容の結果なのかを判断するのは難しいところです。
繰り返しになりますが、当エントリーの主旨は、素人の私の意見を開陳することではなく、2000年問題で得た知見を役立てようというものですので、最後に再度、2000年問題報告書の一文を引用するとともに、現在も懸命に活動されている医療従事者の方々への感謝の言葉とさせていただきます。
(中略)上記のような深刻な影響を予測する者だけでなく、一般に、(ア)コンピュータにトラブルは付き物であり、(イ)それを前提に様々なシステムは構成されているという、コンピュータに接していれば、ある程度常識と理解できることが、こと2000年問題に限っては、この点を考慮せずに事態を深刻に捉えたり、誤作動に過敏に反応したりする傾向もあり、深刻な予想を受け入れる素地が形成されていたとみられる。
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