武田雄治先生から、新刊 『決算早期化が実現する 7つの原則』を献本いただきました。

1月に当ブログでご紹介した 『1年で売上が急上昇する「黒字シート」』 に引き続きの刊行です。

20140314_2

東に売上のあがらない会社があれば行って助け、西に決算が遅い会社があれば行ってそれを改善するという。
会計界の宮沢賢治ともいえる活躍ぶりです。

本書は、2009年に刊行した 『決算早期化の仕組みと実務』 (以降「初期作」)、2012年にそのバージョンアップ版である 『決算早期化の実務マニュアル』 に続く第3弾になります。

当方、1冊目の『決算早期化の仕組みと実務』(以降「初期作」)は拝読しているものの2冊目を未読のため、 「初期作から何が変わったのか?」 という視点から解説していきます。

決算早期化が求められるのは上場企業が中心のため、連結財務諸表の作成と監査対応のウエィトが高まります。
それらの業務を初期作では「アウトプット業務」と「分析業務」と再定義し、この部分の強化によって決算早期化を目指していました。

初期作を公認会計士の方が読まれた際には、「これって、監査の手続きそのものじゃん」と思われたかもしれません。
連結決算や開示資料を、正確かつ効率的に確認する手続こそ会計監査であり、そこには過去の多くの経験から積上げられた知見が凝縮しています。
これを企業側(被監査側)と共有できれば決算作業はよりスムーズに進むという著者のアプローチは合理的なものです。
そのため、初期作には著者の会計監査人としての経験が強く反映されていました。

一方、今作では、個々の対応策を「7つの原則」に抽象化し、新たに括り直しています。
初期作から今作に至るまでに、著者の視点が変化していることが、原則2「属人化をやめる!」 に顕著に表れています。

これは、決算作業を個人のスキルに頼るのではなく、だれでもできるように標準化することを意味し、文中では「決算業務のマクドナルド化」と表現されています。

カリスマ的な経理部員のスキルによって決算業務が担われているのは、ほぼすべての上場企業に当てはまる現象です。
会計監査人の立場としては、正確な決算をしてもらうことが第一義になるため、カリスマ部員が業務を担当している方が安心です。

しかし、決算早期化という視点にたった場合、個人のスキルに頼っている限り、その部分が律速段階となって早期化を妨げます。
この論点が原則のひとつとして抽出され、その重要性に多くのページが割かれている点に、著者の経験の昇華が表れています。

また、本書と同じ会計棚には、最近、刊行された同ジャンルの一冊、金子彰良氏、笠原浩一氏による  『阻害要因探しから始める決算早期化のテクニック』 が並んでいることが多いでしょう。

そこで、本書についてもご紹介しておきましょう。

こちらの書籍では、決算作業をPERT図(又はアローダイヤグラム)を用いて改善することを提唱しています。
PERT図はプロジェクト管理に用いられる図表で、情報処理技術者試験を受験されていた方にとっては、「この作業のクリティカルパスを求めよ」「作業Xの最早開始日と最遅開始日はいつか」といった定番の問題で出てくるあの図といえば思い出すはずです。

(私事ですが、当方、大学では、生産管理やQCが盛んな時代に経営工学を専攻していたため、このPERT図はテンプレート(現在使われている「ひな形」という意味ではなく、型抜きしたプラスチック板のことです)で、よく書かされました。)

そもそも、決算作業自体、ひとつのプロジェクトですからPERT図による分析にもフィットします。

このPERT図によるアプローチが、特に有効なのは、単体決算における販売や購買といった個々の業務プロセス部分になります。
一方、武田氏の著作は単体決算終了後に行われる連結決算と開示に重心を置いていますので、決算早期化を進めるにあたって、両誌はうまく補完し合う関係にあると言えましょう。


このエントリーをはてなブックマークに追加