日本実業出版社 から高田直芳先生の 『「経営分析」入門 』 (以降、「本書」)を献本していただきました。
(Disclaimer)
先日の書評でもお伝えしたように、評者である私自身も同類の決算書本を上梓しているため、書評の中立性に問題が生じる恐れがあります。今回の書評についても、その点を割り引いてお読みください。
■ タカダ式操業度分析とは
まず、前回の書評で使用した決算書本のマッピング図において本書はどのような位置付けになるでしょうか。
本書は、上級者向けの一冊ですが通常の専門書とは領域が異なります。
この領域に類書は存在せず、高田先生の一連の著作(高田直芳の実践会計講座シリーズ)のみが到達した境地と言えましょう。
高田先生自身が2002年に刊行した「ほんとうにわかる経営分析」 (PHP社刊)と比較してみると、この10年間で「高田理論」がどのように発展してきたかがわかります。
前作も、通常の会計書籍とは違う高田先生独自の視点が豊富に盛り込まれていますが、今回の作品との最大の違いは、高田先生がこの10年間の試行錯誤の末に編み出した 「タカダ式操業度分析」 にあります。
一般的なCVP分析(損益分岐点分析)は、売上高と費用を1次関数(=直線)で回帰しますが、タカダ式操業度分析では指数関数(=曲線)を用います。
ダイヤモンドオンラインでの連載 「大不況に克つサバイバル経営戦略」
をお読みの方にとっては、既にお馴染みの分析法ですが、はじめて目にした方は困惑されるでしょう。
指数関数を用いる関係から、評書ではe(自然対数の底)やlogなど、高校の数学以来みたことのない記号が並ぶからです。
作者も、その点については十分配慮しており、数式の算出方法から丁寧に説明し、文中の数値については図表との関連性を明らかにするために詳細なリファレンスが付けられています。
■ CVP分析に未来はあるのか
本書においては、従来のCVP分析がケチョンケチョンに叩かれておりますが、私自身、最新作や最近の原稿でCVP分析について解説しておりますので、若干の意見を述べさせていただきます。
本書では、総コスト線に指数関数を当てはめる根拠を
「企業が昨日稼いだキャッシュは今日へ再投資(複利運用)され、今日稼いだキャッシュは明日へ再投資(複利運用)される」(評書 p148)
ためと説明しています。
総コスト線は販売量の増加にともなって逓増しますが、その主たる要因はキャッシュの複利運用よりも準固定費の影響が大きいと私は考えます。
準固定費とは、販売量が上がるにしたがって段階的に増加する費用のことです。
通常のCVP分析では、費用を販売量に比例して増加する変動費と、販売量にかかわらず一定の固定費の2種類だけに区分します。
しかし、企業は販売量の増加にあわせて工場や支店を増やしていきますから、固定費部分は段階的に増加する準固定費となり、総費用線は階段状の線(下図の青線)になると想定するのが自然でしょう。
このような変曲点(正確には停留点)をもつ軌跡を単純な関数で回帰するのは根本的に無理があります。
あえて、回帰分析するならば、最近の決算における限定された販売量の範囲内で単純な直線回帰を用いるので十分ではないでしょうか。
■CVP分析に対する2つのアプローチ
通常のCVP分析による仮定は、実際の企業活動とは大きな違いがあります。
そこで、私が著作で提唱しているアプローチは、 「計算はするな」 というものです。
CVP分析は利益構造を単純化するための道具と割り切って使用し、電卓を叩いたりグラフを作図するのではなくCVP図を頭の中でイメージできれば十分と考えます。
一方、高田先生は上記のCVP分析の限界を指摘した上で、その限界を乗り越えるための手法を実証的に見つけだすことを目指しています。
会社外部の決算書利用者として使用可能な決算数値の中から、今までにない情報の発見に挑んでいるのです。
高田先生の著作の面白さを味わうためには、ある程度の会計知識が前提になるため、会計初心者の方が本書をいきなり読むのは危険です。
まずは、高田氏の入門者向けの著作 「会計はコストをどこまで減らせるのか?」 で肩慣らし(?)をしてから読み始めるのがよいでしょう。
過去の議論にとらわれず、常にオリジナルの会計手法を模索し続ける高田氏の姿勢は、読者の知的好奇心を刺激するはずです。
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