2014年5月28日、IASBとFASBが合同で開発していた、収益認識の新しい会計基準 IFRS15 Revenue from Contracts with Customers が公表されました。
2002年9月のプロジェクト開始から足掛け12年。延期に延期を重ねたプロジェクトが遂にゴールに到達しました。
(このプロジェクト、システム開発ならば遅延による損害賠償を請求されてもおかしくないレベルです)
しかし、正直申しまして、12年かけた割には、残念な内容の基準です。
この基準で、私が最も気になっているのは、収益の認識時点を定義する以下の部分です。
Step 5: Recognize Revenue When (or As) the Entity Satisfies a Performance Obligation
An entity should recognize revenue when (or as) it satisfies a performance obligation by transferring a promised good or service to a customer. A good or service is transferred when (or as) the customer obtains control of that good or service.
履行義務(Performance Obligation)を充足した時に収益を認識しろと定めているのですが、後段の説明で、「履行義務は財やサービスを移転することで充足する」さらに、「財やサービスが移転する時とは顧客が財やサービスの支配を獲得した時」と定義しています。
この定義の構造を単純な数式で表せば、A=B、B=C という形になります
A(履行義務を充足する時) = B (財やサービスが移転する時)
B (財やサービスが移転する時) = C (顧客が財やサービスの支配を獲得した時)
ならば、A=B=C が成立する必要があるわけですが、B(財やサービスが移転する時)とC(顧客が財やサービスの支配を獲得した時)は、一致するとは限らないため、この基本的な定義部分に論理的な弱さを抱えています。
さらに、基準修正の過程で、収益の認識を「一時点」(at a point in time)で認識するものと「連続的に」(over time)認識するものに分けたため、上記定義とのつながりが、さらにわかりづらくなっています。
(おまえは、会計士なんだから、「文句があるなら出来上がる前に提言しろ!」という突っ込みもあろうかと思いますが、微力ならがASBJの方には過去に意見を提出しております。「日本語で出してもダメだ!」と言われれば、おっしゃる通りでございます m(_ _)m
なお、新基準は、IFRS適用企業に対しては2017年1月1日以降開始する事業年度、US-GAAP適用企業には2016年12月15日以降よりも後に開始する事業年度から適用されます。
ちなみに、当初は2011年に完成を予定されていたので、公開草案が公表された2010年の時点で、こんな本を執筆したのですが
『システム開発のための 収益認識プロセスと会計の接点 IFRS対応版』
タイミングが早すぎました。(ただし、当初案から最終版までの改正過程を理解するには役立ちます!)
【追記】
読者の方から、『「支配の獲得」は履行義務の充足を示す必要条件なので「=(等号)」で表すのは不適切ではないか』
というご意見をいただきました。
ご指摘の通りでありまして、『=(等号)』の使用は、構造を単純化しすぎている部分があります。
「=」を使用してお伝えしたかったのは、以下の論点です。
現行の基準は A (履行義務の充足)=B(財・サービスの移転)=C(支配の獲得)という構造で、C(支配の獲得)とは、どのような概念かを説明しています。
それならば、敢えてCを加えずに、最低限の構造である A =B (又は A=Cでも可)とし、B (又は C) を定義した方が望ましいのではないか。
それと、もう一点不適切な箇所がありました。
「US-GAAP適用企業には2016年12月15日以降に開始する事業年度」
原文は
”annual reporting periods beginning after December 15, 2016”
ですので、「2016年12月15日よりも後に開始する事業年度」が
適切です。失礼いたしました。
「IFRS15 Revenue from Contracts with Customers の矛盾」へのコメント
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