中央経済社から日本大学商学部教授 川野克典氏の新刊 『管理会計の理論と実務(第2版)』 を献本いただきました。 本日は、この骨太の1冊をレビューしたいと思います。

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(Disclaimer)
作者である川野氏は、私のコンサルティングファーム時代の上司でありまして、下手な書評は書けないという緊張感(?)が生じております。

本書は2012年に刊行された同名書籍の改訂版です。
前書きにあるように「理論と実務の橋渡し」となることを目的とし、管理会計の理論を説明するだけではなく、実務における適用事例や課題をまとめています。

たとえば、次のような文中の簡単な一言も、実経験の裏付けがなければ書けないものであり、読者にとって参考になります。

「(原価計算の)差異分析の中でも、製造間接費の分析は、二分法、三分法、四分法が存在するが、そのいずれの分析も無意味と考えている実務家は多い」 (45ページ)

「ABCは、誕生初期においてすべての間接費を割り付けできると誤解された。筆者もコンサルタントの時、顧客にABCによりすべての間接費を割り付けできると説明していた時期がある」(104ページ 注書)

また、作者は管理会計の理論上のベースとなる原価計算基準の現状との乖離について強い問題意識を有しており、第5章「原価計算基準の陳腐化」、第18章「会計基準に対応した日本企業の管理会計の変革」において原価計算基準の改訂を提言しています。

そこで、今回、比較対象としてとりあげるのは清水孝氏の『現場で使える原価計算』 (以降「比較書」)です。

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比較書の特徴は、2011年に上場製造業に対して行った質問票調査の結果にもとづき、原価計算実務の現状を伝える点にあります。

たとえば、地味ではあるが現場担当者を悩ませる論点として材料副費の処理があります。

それに対して以下のような調査結果が提示されるため、自社の処理方針を決める際の参考になります。

材料の購入原価に含める材料副費の範囲(複数回答あり)

①すべての外部副費  93社

②一部の外部副費   57社

③すべての内部副費  17社
④一部の内部副費   31社
⑤材料副費は材料の購入原価に算入していない 42社
 無回答 4社

(比較書 28ページ 図表2‐6より抜粋)

原価計算書籍の多くは、理論の説明を中心にしたものが多いため、実務の状況を俯瞰できる書籍は貴重です。

今回、比較書をあらためて読み直したところ、以下のような記述があることに気付きました。

「川野(2008)は、『基準』が答申された時代と比較し、手作業から機械中心の生産方式への変化、対象生産から多品種少量生産への変化、研究開発費等の間接費の増加、ITの進展、生産・販売・研究開発等の分野における日本企業のグローバル展開、非製造業やソフトウェア業の拡大などを示した上で、『基準』はこれら応えられず、『基準』にとらわれない原価計算をする必要があると指摘している」
(比較書 16ページより引用)


作者の清水氏は、川野氏の問題提起に対する回答を提示することが調査のきっかけになったと書いています。

評者である私自身は、アカデミックからほど遠く実務一辺倒で働いているため、学術上の理論を軽んじがちなのですが、アカデミック領域の方々の地道な努力が実務のバックボーンになっていることに改めて気付かされました。

今回の2冊は、合わせて読むことで、自社の原価計算の在り方について見直すきっかけが得られるでしょう。

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